後遺障害による逸失利益
1 後遺障害による逸失利益
(1)逸失利益
逸失利益(いっしつりえき)とは、被害者が、仮に、交通事故による後遺障害がなければ、得られたであろう利益のことをいいます。
この場合の利益は、通常、所得収入になります。
(2)計算式
そして、後遺障害による逸失利益は、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、正確には、以下のような計算式で計算されています。
「基礎収入額」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数」
以下、順に説明いたします。
(3)「基礎収入額」
基礎収入額は、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、概ね、以下のように考えられています。
有職者 | 給与所得者 | 原則として、事故前の収入額 |
---|---|---|
事業所得者 | 原則として、申告所得額 | |
家事従事者 | 原則として、全年齢平均賃金額 | |
無職者 | 学生・生徒・幼児 | 原則として、全年齢平均賃金額 |
高齢者 | 就労の蓋然性がある場合、年齢別平均賃金額 | |
失業者 | 再就職の蓋然性がある場合、原則として、再就職によって得られるであろう収入額 |
但し、上記の基準はあくまで原則的な基準であり、例外が存在しますので、各事件の事案によって差異が生じます。
詳しくは、「逸失利益・基礎収入額」をご覧ください。
(4)「労働能力喪失率」
労働能力喪失率は、労働能力の低下の程度をいいます。
そして、労働能力喪失率は、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、後遺障害の等級の程度に応じて、原則として、以下のように考えられています。
後遺障害 | 1級 | 100% |
---|---|---|
2級 | 100% | |
3級 | 100% | |
4級 | 92% | |
5級 | 79% | |
6級 | 67% | |
7級 | 56% | |
8級 | 45% | |
9級 | 35% | |
10級 | 27% | |
11級 | 20% | |
12級 | 14% | |
13級 | 9% | |
14級 | 5% |
例えば、後遺障害等級5級の交通事故被害者は、労働能力が79%低下したため、今後得られる所得収入も、後遺障害がない場合と比較して、79%低下したと考えられています。
なお、例えば、後遺障害等級5級は、どのような後遺障害が該当するかにつきましては、「後遺障害別等級表」をご覧ください。
(5)「労働能力喪失期間」
労働能力喪失期間は、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、原則として、「67歳までの期間」と考えられています。つまり、交通事故被害者は、67歳まで所得収入を得られたであろうと考えられています。
但し、高齢者の場合、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、「67歳までの期間」が「平均余命年数の2分の1」より短くなるときは、「平均余命年数の2分の1」を使用すべきと考えられています。
(6)「中間利息控除係数」
中間利息控除は、金銭は通常利息が発生するものであることから、将来取得予定の金銭を、現在の金銭価値に引き直す場合に用いられるものです。
そして、逸失利益の場合も、将来にわたって利益(所得収入)が発生しますが、他方、損害賠償は、通常、現時点で一括払いされますので、将来取得予定の金銭を、現在の金銭価値に引き直す必要があり、その間の中間利息を控除すべきとの考えに基づきます。
そして、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、原則として、年5%のライプニッツ係数(複利計算)が採用されています。
(7)具体例
例えば、交通事故被害者が、症状固定時に年齢35歳、年収は500万円で、後遺障害等級5級が認定された場合を考えます。
この場合、原則として、「基礎収入額」は500万円、「労働能力喪失率」は79%、「労働能力喪失期間」は32年(67歳-35歳)になります。
また、「労働能力喪失期間(32年)に対応する中間利息控除係数(年5%のライプニッツ係数)」は15.8027とされています。
よって、この場合の後遺障害による逸失利益は、原則として、
500万円×0.79×15.8027=6242万0665円
になります。